バアちゃんの話

▶ in Diary posted Sun 25 Aug 2013 / 19:56

お盆明けの最初に仕事をようやく納品して一息。
明日からは別の新しい仕事の打ち合わせが入ります。

突発性難聴は一週間薬を飲みきりましたが、間に十日祭(仏教で言うところの初七日)で、またフェリーに揺られることになったので、症状が後戻りしてしまいました。
どうしようかなと思っているのですが、家にあるビタミン剤だけで何とか乗り切れそうなので、様子を見ることに。

夫は五十日祭(仏教で言う四十九日)に向けての準備やら、相続のことやらで大変そうです。
(私は何もしていない)
ただ、島に帰る時は夫ひとりではなかなか難しいことがあるので私も帰ります。
先達ての十日祭もそうでした。

バアちゃんは、結婚してから今まで一切お金を管理したことがありません。
ATMも使ったことがありません。
自分が定期的に病院でもらう薬がいくらかも知らないし、光熱費がいかほどかも知りません。
今まで全部ジイちゃんが管理していて、ジイちゃんの具合が良くない状態になってからは義姉夫婦が管理していてくれたのです。
お料理も嫌いだし、ゴミの処理もできません。
私は夫と結婚して、初めて「そうだったの?」と知ることが多かったです。
だって、散々私はお金の管理ができてないとか、料理の盛り付けすらなってない、とかよく言われていたので。
なんだか狐につままれた気分です。

そんなバアちゃんは、少し認知症です。
ジイちゃんが亡くなったので、銀行口座やらいろいろ動かさないといけないけれど、バアちゃんは案の定、通帳のことやら実印のことやらさっぱり分かりません。
でも、再手続するためにはバアちゃん本人が行かないといけないこともあるのです。
それが夫ひとりでは難しい。
なので私が同行します。
私はバアちゃんの手を引くだけの役目です。
痩せて小さいバアちゃんの手は子供の手より頼りなくて、何だかちょっと悲しいです。

窓口で夫が手続している間、バアちゃんとソファに座ります。
夫がやっていることがバアちゃんに分かっているかな、と思います。
そのバアちゃんがふいに口を開きます。
「あんた達が帰ったあと、私はずっと心に留めて嫌な思いをしていることを言わないといけないの」
どうしたの、と聞くと、バアちゃんは聞かれるのを待っていたかのように話し始めます。
「家には私でしょ、で○○(バアちゃんの娘)とあの人がいるでしょ? その中でね、私の洗濯物がなくなるの」
私は最初、何のことかわかりませんでしたが、それから何度もバアちゃんが同じことを繰り返すので、ああ、これが前に夫の言っていたことか、と思い当たりました。
少し前からそういうことを口走るのだと夫が言っていたからです。

家に戻ってからネットで調べて分かったのですが、認知症の典型的な症状として、盗難妄想があるのだそうです。
多くは、自身の財産やお金に絡むものを誰かが盗ったと言うそうですが、バアちゃんはそのあたりの接点が今まで全くなかったので、次に大切なものとして自分の身の回りの日用品を盗られた、と言うのです。
バアちゃんはまことしやかに言いますが、内容は突っ込みどころ満載です。
いや、そもそも、バアちゃんの下着盗んで喜ぶ人がどこにいる。
それでも、バアちゃんにとっては一大事で、それは疑いようのない事実で、盗ったと思い込んだ相手が憎くて憎くてしようがないのです。
私は結局4、5回同じことを繰り返し聞くことになったかもしれません。
「何が無くなったの? 無くなって困っているものがあるなら買おうか?」
と、言うと、「何が無くなったか分からない」と言います。
分からないけれど、盗られたことは確かだとバアちゃんは主張します。

私はなんだかんだ言っても嫁で、もともとはアカの他人です。
でも、夫や義姉にとっては実の母です。
真正面から怒ってはいけない、とたぶん2人共分かっているのでしょうが、そういうことを口走る母親を冷静に見れません。
その怒り方を見ていると、バアちゃんのことも可哀想になってきます。
でも、いずれは私もその槍玉になるのかもしれません。
あの嫁が何かを盗った、嫁が帰って来ると何かが無くなっている。
そう言われる日も遠くはないのでしょう。
私はそれで失うものは何もないので、言われたところで別にどうということはないのですが、若い頃はキンキンカンカン、きっついことばっかり言っていたバアちゃんが皆に疎まれてしまうのは老いの悲しさを見るようで。

同じ認知症で何もわからなくなるのなら、
バアちゃん、幸せの中でぼやーんとしてくれんかな、と思うのです。

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